東京地方裁判所 平成4年(ケ)1370号 決定 1992年6月02日
(不動産登記簿上の商号。旧商号)
株式会社オリエントファイナンス
(新商号)債権者
株式会社オリエントコーポレーション
代表者代表取締役
阿部喜夫
右訴訟代理人弁護士
櫻井英司
債務者兼所有者兼譲渡人
株式会社高野敏男商店
代表者代表取締役
高野敏男
持分一万分の一九六の第三取得者(仮登記権利者)
戸ケ崎チヨ
持分一万分の七〇六の第三取得者(仮登記権利者)
中町正二
主文
債権者の増価競売の申立てを却下する。
理由
一 債権者の申立て
本件は、共有持分の移転請求権仮登記権者に対して増価競売を求める事件である。
本件の事実関係は、次のとおりである。
(1) 別紙物件目録記載の土地(本件土地という。)は、株式会社高野敏男商店の所有である。
(2) 高野敏男商店は、次のとおり、抵当権の設定登記手続をした。
昭和六二年一〇月三〇日 抵当権者・債権者 債権額八億五〇〇〇万円
平成一年二月二日 抵当権者・債権者 債権額四一〇〇万円
(3) 高野敏男商店は、昭和六二年四月六日戸ケ崎チヨとの間で本件土地の持分一万分の一九六の交換予約契約を結び、平成一年二月一七日所有権一部移転請求権仮登記手続をした。
(4) 高野敏男商店は、昭和六一年九月一〇日中町正二との間で本件土地の持分一万分の七〇六の交換予約契約を結び、平成一年二月一七日持分一部移転請求権仮登記手続をした。
(5) 高野敏男商店は、次のとおり、抵当権の設定登記手続をした。
平成一年一一月一四日 抵当権者・債権者 債権額三億五〇〇〇万円
平成三年一〇月二九日 抵当権者・株木建設株式会社 債権額三億八一八〇万円
(6) 中町正二は、債権者からの抵当権実行の通知に対して、平成四年四月二三日上記高野敏男商店から取得する持分について三五〇〇万円で滌除する旨債権者に通知した。
(7) 戸ケ崎チヨは、債権者からの抵当権実行の通知に対して、平成四年四月二四日上記高野敏男商店から取得する持分について五〇〇万円で滌除する旨債権者に通知した。
(8) 中町正二及び戸ケ崎チヨは、上記滌除の通知をした当時、仮登記の本登記を取得していなかった。
(9) 債権者は、平成四年五月一五日当裁判所に、中町正二及び戸ケ崎チヨが上記高野敏男商店から取得する持分(別紙物件目録記載の持分)について増価競売を申立て、増価競売の申立てが却下されるときは、別個に別紙物件目録記載の土地全体について通常の競売の申立てをするものとしている。
二 当裁判所の判断
(1) 仮登記のままの滌除の効力
抵当権者が抵当権を実行しようとするときは、あらかじめ民法三七八条に掲げられた第三取得者に実行通知をしなければならず、その第三取得者には、仮登記権利者も含むのであるが、仮登記権利者は、仮登記のままでは、その権利を抵当権者に対抗することはできないから、有効に滌除の意思表示をするには、仮登記の本登記を取得しなければならないものと解すべきである。
(2) 滌除の書面に添付すべき登記簿謄本の記載内容
そして、仮登記権利者が抵当権実行通知を受けた場合でも、通知を受けたときから一ケ月内に滌除をすることができるが、民法三八三条により抵当権者に送付する滌除の書面には、仮登記の本登記の記載がある登記簿謄本を添付しなければならず、滌除の書面に本登記の記載のない登記簿謄本が添付されていても、滌除は効力を生じないものと解すべきものである。
(3) 結論
一(8)に認定したとおり、中町正二及び戸ケ崎チヨは、本件の滌除をした当時、仮登記の本登記を取得しておらず、したがって、滌除の書面に仮登記の本登記の記載がある登記簿謄本を添付していなかったものと認められる。
そうすると、中町正二及び戸ケ崎チヨがした前記一(6)及び(7)の滌除は、無効であるといわねばならない。
そこで、債権者の増価競売の申立てを却下することとする。
(裁判官淺生重機)
別紙担保権、被担保権、請求債権
一、担保権
(1) 昭和六二年一〇月三〇日設定の抵当権
債権額 金八億五〇〇〇万円
(2) 登記
東京法務局江戸川出張所
昭和六二年一〇月三〇日受付第五九五九八号
二、被担保債権および請求債権
(1) 元金 金八億五〇〇〇万円
但し、昭和六二年一〇月三〇日の金銭消費貸借契約による貸金
(2) 損害金 上記元金の弁済期日の翌日である平成三年一〇月三一日から完済に至るまで上記元金に対する年一八%の割合による遅延損害金
(三六五日の日割計算)
別紙物件目録
一、東京都江戸川区西小岩壱丁目壱九弐〇番壱
宅地 267.28平方メートル
のうち
第三取得者戸ケ崎チヨにつき持分一万分の一九六
第三取得者中町正二につき持分一万分の七〇六